認知症の症状

徘徊
おかしいなと感じたら、まず最寄りの医療機関へいってみましょう。

目的無くあちこちを歩き回る、さまよう様子をいいます。

決まった道(たとえば自分で決めている散歩コースなど)を何度もぐるぐる歩き続けることは周徊といい、徘徊とは異なった捉え方をします。

歩き出すきっかけは、周りの人から見て「こうなのではないか?」と推察したり、歩いている本人に尋ねたりして分かることもありますし、分かりにくいこともあります。ここではいくつかのきっかけ(と思われること)を例に挙げます。

  1. 記憶障害、場所の誤認、場所の見当識障害、視空間失認などが関係するもの

    • 退職したはずの会社に行こうとしてしまう
    • 家に帰ろうとしてしまう(帰宅願望)
  2. 欲求によるもの

    • トイレに行こうとする
    • お腹がすいて、何か食べる物を探そうとする(実際に食べる物を探している場合も、探そうとして歩き出し、そのままさまよい歩いてしまう場合もある)
    • 誰か人を探そうとする
  3. 衝動や反応によるもの

    • 「ここから脱出しなければ」といったような思いにかられる
    • 「とにかく何かしなければならない」といったような思いにかられる
    • 窓の外を歩く幼稚園の制服を着た子どもを見て、「迎えにいかなければ」と思う
    • 傘をさしている人を見て「駅に傘を持って迎えにいかなければ」と思う
  4. 意識の変容によるもの

    • 疲れていたり、発熱したりしていてもうろうとしている時に、よく分からないままうろうろしてしまう
  5. 幻覚、妄想によるもの

    • 幻視で見えているものを追って(追い払おうとして、捕まえようとしてなど)歩き出してしまう
    • 幻聴で聞こえているものを確かめようとして、外へ探しに行ってしまう
    • 妄想に関係して(例えばいやがらせをする人物に文句を言いにいこうとして)歩き出してしまう
  6. その他無目的に見えるもの、漠然としたもの

    • 「天気がいいからちょっと散歩しようかな」「何となく居心地が悪いからどこかへ行こうかな」といったようなきっかけで歩きだしてしまう

辞書で「徘徊」を引くと「あてもなくうろうろ歩きまわること」とあり、例に「街中を徘徊する」と出ていました。私はたまに、買うお金もないのにショーウィンドウを眺めてはぶらぶら、うろうろと街中を歩きまわることがありますが、まさに「街を徘徊する」といった感じです。自分が「あてもなく」歩いているのであれば、「そろそろ帰ろうよ」と言われた時に「そうだね」と言えます。あてがないので、適当に戻ろうと思えるからです。しかし、あてがあり、しかもまだ目的を達成していなかったら、帰ろうと言われても「いや、まだ帰らない」となります。

さて、認知症の方があちこち歩きまわることを指す徘徊は、本人にとって徘徊なのでしょうか。周囲から見て「徘徊している」といった捉え方をしているのでしょうか。

あ、雨が降ってきたから傘を持って駅まであの人を迎えにいかないと濡れてしまう…そう思って席を立って歩き出す、でも歩いているうちに何をしようとしたのか分からなくなってしまった、けれど、どうしてもそれをしなければならないという気持ちはとても強くて、だから雨の中を出掛けなければならない、そんな時「こんな雨の中、どこへ行くの」といきなり腕をつかまれたら…私だったら、びっくりするし怖いし、でも「行かなきゃいけないんだから」と腕を振り払ってでも飛び出して行くでしょう。

周りの人にとってはきっかけが分からなかったり荒唐無稽であっても、出かけようとする、歩きまわってしまう情景は、焦りや不安を伴い、いてもたってもいられなくて、理屈抜きで行かなければならないという気持ちが背中をどんどん押してくるような感じなのではないでしょうか。もし、私がそんな激情の渦の中で今まさに歩きだそうとしていたら、腕をつかまれて引き戻されるよりも、そっと傘をさしてくれたり、雨の中滑りにくい靴を出してもらえると嬉しいなぁと思います。できれば広い歩道や転びにくい舗装、「どこへ行くのですか?」などと声をかけてくれる見知らぬ街の人などがいるともっと嬉しいかもしれません。(HR)