認知症の症状

失語
おかしいなと感じたら、まず最寄りの医療機関へいってみましょう。

失語を説明をする前に、言葉でのコミュニケーションについて簡単に説明します。 言葉でのコミュニケーションには、話す、書く、聞く、読むがあります。 それぞれどのような過程を経ているかおおざっぱに分解してみると、次のような段階があります。

  • 話す場合
    1. 「言いたい」言葉を選ぶ(空腹時に「お腹」「減った」という言葉を選ぶ)
    2. 言葉をつなぐ(お腹が減った、というように文章にする)
    3. 言葉を音声にする(「お腹が減った」と声に出す)
  • 書く場合
    1. 「書きたい」言葉を選ぶ(空腹時に「お腹」「減った」という言葉を選ぶ)
    2. 言葉をつなぐ(お腹が減った、というように文章にする)
    3. 言葉を文字にする(「お腹が減った」と文字にする)
  • 聞く場合
    1. 耳で音として聞く
    2. 聞いた音を言葉として認識し、内容を理解する(「お昼にしましょう」という言葉の意味を理解する)
  • 読む場合
    1. 目で文字を見る
    2. 見た文字を言葉として認識し、内容を理解する「お昼にしましょう」という言葉の意味を理解する)

失語とは、以前は言葉でのコミュニケーションが出来たのに、出来なくなってしまうことで、上記のどれか一部分、あるいは複数の部分が出来ない状態をいいます。 ただし、感覚器や運動器、構音に関わる器官に障害がある場合には失語とはいいません。 例えば、

  • 音が聞こえにくい、聞こえない、難聴など(音を感じる感覚器の障害)
  • 視力が悪くて見にくい、見えない、老眼など(見ることに関わる感覚器の障害)
  • 文字にする時に必要な、鉛筆を握ったりキーボードを打つ指や手、腕の操作がしにくい、できない(運動器の障害)
  • 音声を作るのに必要な器官が動かない、動きにくい(構音障害)

などの理由でコミュニケーションが出来なくなってしまった場合は、失語ではありません。

失語の分類はいく通りかありますが、ここでは症状からみた分類のうち、認知症に関わりの大きなものを説明します。

  1. 話す時の様子
    • 流暢性失語

      以前と変わらない滑らかな話し方ができる状態をいいます。
      例)話し方は滑らかだが、何を言っているのか分からない

    • 非流暢性失語

      以前と比べて話し方が滑らかではない。努力して必死に話そうとするが、滑らかに話せない状態をいいます。
      例)トツトツとして、ひとこと話すのも努力しているような感じ

    • 言語自発性の低下

      ほとんど自分からは話そうとせず、黙っている状態をいいます。
      例)私に続いて言って下さい、と言って促すと復唱はできるが、自分からは話そうとしない

  2. 言いたい言葉を選ぶ時・言葉を発する時
    • 換語障害・語健忘・語想起障害

      言いたい単語・意図した単語を思いつけない、思いだせない、言いたい言葉が出てこないような状態をいいます。
      例)「リモコン」という言葉が出てこなくて、「ほら、あれ取って」などという

    • 迂言

      言いたい単語が言えなくて、その単語を文章で説明するような状態をいいます。遠まわしで長い説明になりがちです。
      例)「リモコン」という言葉がでてこなくて「ほら、あれ取って。その上に乗ってるやつ、ピコピコ変えるのに使うやつあるでしょ、黒いの」などという

    • 錯語

      言いたい単語と異なった単語を言ってしまう、言い誤りがある状態です。 言いたい単語が別の単語に置き換わってしまう語性錯語、単語の一部分が他の音に変わってしまう 音韻性錯語などに分類されます。
      例)「リモコン」といいたいのに「めがね」と言ってしまう(語性錯語)
        「リモコン」といいたいのに「リノコン」と言ってしまう(音韻性錯語)

    • 新造語

      単語を構成する音がほとんど置き換わってしまい、元々の言葉が推測できない状態をいいます。
      例)「リモコン」といいたいのに「ひろとん」と言ってしまう

    • ジャルゴン・ジャーゴン(jargon)

      錯語や新造語が多くなって、何か話しているのに何を話しているのか意味は分からない状態をいいます。
      例)実際に内容のある会話にはなっていないけれど、日本語の分からない外国人が聞くと、いかにも会話が成立しているかのように聞こえる

  3. 前と同じことを言ってしまう
    • 反復言語(同語反復)

      同じ言葉を繰り返してしまう状態をいいます。
      例)「リコモン」と言った後、続けて「リモコン、リモコン、リモコン…」と言ってしまう

    • 滞続言語

      一度口にした言葉が、違うことを言おうとしてもまた口から出てしまう状態をいいます。
      例)「リモコン」と言った後、メガネといいたくても「リモコン」と言ってしまう

  4. 人が話しかけた時
    • 反響言語

      人が言ったことをそのまま復唱してしまう状態をいいます。
      例)「最近いかがですか?」と話しかけられると「最近いかがですか」と言ってしまう

    • 語義失語(意味記憶障害)

      単語の意味が分からなくなってしまう状態をいいます。
      例)「リモコン取って」と言うと「リモコンって何のこと?」と聞き返す

    • 統語理解障害

      文法的な理解ができなくなってしまう状態で、単語の意味は分かっていても、文になると分からなくなってしまいます。
      例)「リモコン取って」と言うと分かるが、「リモコンをテーブルの新聞の横に置いて」と言うと分からなくなってしまう

これらの他にも分類や失語の型は色々あります。 また、ひとつの症状だけの場合もあれば、いくつもの症状が重なっている場合もあります。

コミュニケ―ションの多くを言葉に頼ってきたのに、その言葉をうまく使えなくなってしまったら…そんな状況を想像すると、どうしたら人に何かを伝えられるのか、もどかしくて苦しくて混乱するのではないかと思います。「ありがとう」の気持ちでいっぱいなのに、気持ちを表す言葉が見つからないなんて。自分では「ありがとう」と言っているつもりなのに、相手には伝わっていないなんて。話しかけてくれている言葉のすべてが、外国語のように意味が分からないなんて。このような、過酷で泣きたくなるような状況の中、目の前にいる人とどうやって向き合っていけば良いのでしょうか。そんな時、言葉(言語)では伝えられなくても、手を握って「ありがとう」の気持ちが伝われば。肩を抱いて「心配ないよ」と伝えてくれれば。複雑なことは分かりにくくても、言葉を超えたところで繋がっていられる何かがあるのではないかと思います。

失語とひと言で言ってもたくさんの症状があります。これらの説明を読んで、どれに当てはまるかを考えることに力を注ぐのではなく、「もしかしたら、ただ言葉がでてこないだけで話していることは伝わっているんだ」とか「長く話すと分からなくなってしまうけど、単語に区切れば伝わるかもしれない」といったように、本人にとっても話し手にとってもストレスが軽くなるような可能性を見つける助けになることを願っています。(HR)